ASEAN主要7カ国+インド マーケットの入口

ASEANブログREPORT

 令和8年 訪日プロモーション予算の配分指針 |東南アジア市場別の優先度と難易度

サワディーカップ。アジアクリックの髙橋学です。
みなさま、来年度に向けて各市場別・事業別のインバウンド事業計画で悩まれている方も多いかと存じます。
そこで、東南アジア・インド訪日インバウンド市場について、社内説明の補足となる情報を共有いたします。
※引用したJNTOによる数値データは、記事末尾に出典のURLを記載しています。

【結論・まとめ】
シンガポールは高付加価値旅行を最も展開しやすく、タイは地方への送客を進めやすい市場です。2026年を見据えると、まずはこの二大市場への集中をおすすめします。
次に、フィリピンは近年の伸びが大きく、誘客数の純増が最も期待できるため、シンガポール・タイに続く重点市場としておすすめします。
昨今注目を集めているインドは旅慣れた層に合わせた受け入れ整備で満足度と日本側の効率を両立しやすくなります。
マレーシア・インドネシア・ベトナムは団体の方針や各種事情に併せて訪日インバウンドを進めても良いでしょう。

シンガポール:高付加価値に最も届きやすい

訪日の実績は早くから高水準で推移し、情報収集力と計画性が高く、自身の価値観に沿う高付加価値の旅行商品・グルメ・体験が響きます。教育水準も高いが故に広告やセミナーの投資効果も設計しやすく、東南アジア・インド地域において最も高付加価値旅行を推進し単価を高めたい取り組みと相性が良い市場です。
ラグジュアリー特化型旅行商談会であるILTM Asia Pacificが例年シンガポールで開催されており、高付加価値旅行市場のハブとなっています。ただし先進国で最初期から訪日を行ってきた国であり人口規模は限定的(2024年の訪日者数は約69.1万人)で、現地の高付加価値旅行会社との連携による消費単価向上を目的とした確実性の高い送客のため、ファムトリップや現地の新聞とのメディア連携など施策が大変有効です。

タイ:送客規模と地域への誘客を両立しやすい

訪日タイ人は足元も堅調(JNTO 2025年6月時点での半期推計値68.1万人、2025年1-5月が前年同期比9.6%増で推移)で、国民性・休みの取りやすさから1~2週間の渡航がしやすく再訪者も多い(2023年は78.6%がリピーター)ため、地方ツアーのシリーズ化による安定した送客が見込めます。
地方の四季の自然、温泉、地元ならではの食体験などを組み合わせた地方コースも受け入れられやすく、依然として募集型ツアーも多く、予算が潤沢な企業・政府団体によるインセンティブツアー・報奨・視察旅行、10人前後でのFIT家族旅行で、人数の確保と体験価値の向上を同時に進めやすいのが楽で楽しく、結果も出やすいです。
更に、タイはシンガポールに続く世界第8位の高付加価値旅行市場でありツアーの価格格差も大きく、またFIT化も年々進んでいるので地域の商品特性や課題に合わせ大手に限らない提携旅行会社選びが重要です。

フィリピン:人数の上積みが最も見込める

2019年61.3万人 → 2023年62.2万人 → 2024年81.9万人と年々顕著な増加が続き、2025年1–3月期も前年超えで推移しているのがフィリピン人観光客です。フィリピン人の平均年齢は2025年時点で約26歳と大変若く、家族旅行や若年層の消費欲が強く、キリスト教が多数派で食・行動上の制約が比較的少ないため、地方ツアーも受け入れられやすいのが特長です。
実務上の観測では、1人当たり消費も、データでは平均的でも、子連れ・多人数の同行が多いため旅行単位の実支出は増えやすく、中国ほどではないにせよ、先行訪日市場同様の訪日時の消費額が見込めます。
現地の有力旅行会社もタイや台湾同様に地方ツアーの造成に協力的で、近年の訪日「ビザ申請制度の変更もあり、特に大家族向けの地方ツアーや企業の報奨旅行は、双方にとって進めやすいでしょう。フィリピンは家族・学休期中心の販売計画が要点です。他国より長めのビザのリードタイムを逆算し、早売りで市場を取りにいきましょう。

以上のシンガポール・タイ・フィリピンが、日本の地方がまず取り組みたい市場です。
これら3カ国に比べると2026年度の誘客事業の効率や実施難易度は上がりますが、ご参考までに他市場の現状についても共有します。

インドネシア:市場も将来性も大きいが、粘り強い取り組みが必要

2024年の訪日者は51万7600人で過去最高を更新。家族・教育旅行や雪体験など、地方のテーマも人気な訪日市場です。ターゲットとしては、ムスリムと少数だが誘客しやすい華人いずれを狙うのか慎重に検討し、現地旅行会社のインセンティブツアーや認知底上げのためのFIT向け現地メディアと連携し、成果を上げるためには他国に比べて中長期で取り組む必要があります。インドネシア政府の外国人政策は厳しく、東南アジア他国と異なり、親日ではあっても日本を海外旅行先として一番に検討しているわけではありません。
ランドオペレーター(ランド)面でも、直前になっての急な変更やキャンセルが他の東南アジア訪日層より多い傾向も一部あります。インドネシア訪日観光業界でも「有力旅行会社との提携によるインセンティブツアー」「FITに向けてコツコツ認知拡大」の2本柱が共通認識となっています。

マレーシア:ムスリムと華人を併せて事業推進

2024年は50万6800人で前年比21.9%増。素直に学校休暇や連休に合わせた共同プロモーション、テーマ性のある地方周遊商品を現地大手・老舗旅行会社と協働することで、送客計画は立てやすくなります。誘客数を増やすならマレーシア華人向けだけでなく、ハラルフレンドリーの対応や多世代旅行の受け入れを整備しムスリム向け旅行会社とも協業すれば、コツコツと実績が出せる市場ではあります。 同じムスリム国ですが、マレーシア海外旅行業界が成熟しておりマレーシア人は英語が話せますので、新興市場であるインドネシアよりは地方への誘客難易度はやさしいです。

ベトナム:政府・民間の報奨旅行から狙おう

2024年の訪日者は62万1100人で過去最高、前年比8.2%増。2025年1〜5月は31万1700人で前年同期比9.6%増と堅調です。しかし内実は、コロナ禍前より地方ツアーの企画自体が減っており、訪日商品はゴールデンルートに偏っています。コロナ禍で人員の入れ替えがあり、せっかくそれまで積み重なった地方への知識がまた再スタートした、というハノイ・ホーチミンの現地旅行会社状況となっています。ベトナム自体は近年経済成長が目まぐるしく、収入格差もどんどん広がっており、旅行会社によっては協力支援金が必要であることも留意が必要です。 ベトナム人旅行者には日本政府の制度上では未だFIT向けビザ免除は解禁されていません。むしろ日本での逃亡者を出した現地旅行会社には厳しく対応すると度々通達しています。しかし実際は訪日ビジネスビザで、レジャー目的含め訪日しているという実情があります。
素直に狙うなら、現地旅行会社と協業し、ベトナム政府系・民間大手の団体報奨旅行の地方誘致が現実的でしょう。

インド:海外慣れした層から慎重に

昨今注目を集め、訪日実績は2024年に23.3万人、平均滞在13.8泊(観光レジャー目的)、1人当たり消費は24.2万円と、長期滞在かつ比較的高い支出でもあり、来年度予算に組み入れる団体も増えてきた印象のインド人観光客誘致ですが、日本の地方にとって最も大切なことは「海外慣れしたインド人」、つまり高学歴層であり海外慣れしているアメリカやインド上場企業などのインセンティブツアーを狙うことです。
そうでないと、ランドの現場では食べ物の制限、歴史的な風習に起因するコミュニケーションの難しさ等により長期におけるインドからの誘客は成立が難しくなります。
インドからの誘致は、当初はムンバイやバンガロールのイギリス系大手旅行会社等をファムトリップに誘致したうえでの、旅行会社との協業によるインセンティブツアー誘致から始めるとよいでしょう。 PR面は、インド旅行会社は他国より面と向かっての信頼関係構築を重視しており、インド現地でのロードショー開催、セールスコールが定石です。

産業振興・MISEと連動したインバウンド誘致

これら東南アジアのASEAN諸国では、日本での見本市や企業研修、視察、輸出促進など産業分野に結びついた訪日も可能です。 日本の先進医療・高齢化対策・災害対策・建設・工場のDX・テクノロジーなどのMICEコンテンツは各国政府部門・民間大手・業界団体に興味を持ってもらえ、企業旅行の予算もつきやすいです(が、世界各地とのコンペになります)。
東南アジア・インド各国における業界別・産業別の具体的なニーズについては、お気軽にご相談ください。

【おわりに】 市場横断/別、事業横断/別についてのご相談・壁打ちでもお気軽に
2026年に向けた基軸はシンガポールとタイです。シンガポールは高付加価値商品の成約で単価を押し上げ、タイは安定した規模と地方送客を同時に実現しやすい土台があります。
同様の成果が狙え最も狙い目であるフィリピンは地方においても純増が期待できます。
2026年現在は、まずは条件の揃っているこれら3カ国訪日市場に取り組むのが定石と言える状況です。

インドはまず、海外慣れした層に対象を絞って、圧倒的に文化が異なる両国民が末永いお付き合いができる基礎にいたしましょう。
インドネシア・マレーシア・ベトナムは、目的や体制に合わせて効率よりも段階的に・長期的に取り組む選択肢です。

事業の実務面では、現地大手との協業とファムトリップの活用、家族向けFITグループとインセンティブツアーの大小団体を狙う。 また産業・輸出・人材事業と連動したMICEも地方への誘致の理由として強みになります。

限られた予算の中で、仕様を現実的にしながら課内外の承認を得なければ行けないのは、大変なことだと拝察いたします。
来年度に向けての東南アジアの市場別・事業別・横断・連携予算の概算についても、お気軽にご相談ください。
特に、貴地域の現状(課題、予算感、想定ターゲット、KPI感)をお伺いできれば、「シンガポール高付加価値旅行者向け」や「タイ地方誘客向け」の具体的なファムトリップ企画案やPR施策案をご提案いたします。
新興市場においても、「フィリピン華人系旅行会社によるインセンティブツアー」と「インドMICE誘致」のどちらに可能性があるのか、といった壁打ちからでも歓迎いたします。

アジアクリック 高橋学
mana@asiaclick.jp

※記事中の数値データの出展
・JNTO 訪日外客統計 https://www.jnto.go.jp/statistics/data/visitors-statistics/
・JNTO 月別・国別データ https://www.jnto.go.jp/statistics/data/since2003_monthly_visitor_arrivals.html
・JNTO 国籍別 都道府県別延べ宿泊者数 https://statistics.jnto.go.jp/graph/?utm_source=chatgpt.com#graph–overnight–stays–by–prefecture–and–country–area