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バンコクで17万人を集客、「マカオ×香港」プロモーションの衝撃。 日本は「強み」の再発見が急務

昨今、タイ・バンコクでは、福岡など日本の自治体や、香港観光局、台湾観光局、韓国観光公社などのNTOが、屋内外でさまざまなタイ人観光客誘致イベントを次々と開催しています。

結論:世界と戦うには「ユニークさ」を「誰に届けるか」

今や日本のインバウンドは、香港・マカオのような大規模かつ多様なプロモーションと“都市×都市”の組み合わせ体験(インバウンド業界用語だと「地方周遊」)に真正面から競争を挑まれています。
この現実を直視し、日本の各地方独自の“ここだけ”の魅力を、的確にターゲットに届ける戦略が、我々日本の地方には不可欠です。  まずは以下より詳しくバンコクの状況を見ていきましょう。


マカオ政府観光局のバンコクでのイベントの概要

マカオ政府観光局(MGTO)は、タイ人観光客誘致強化を目的にExperience Macao」ロードショーが実施され、2025年6月6日から8日までの3日間、バンコクのサイアムパラゴン(Siam Paragon)で「Experience Macao(Macao Wonder)」ロードショーを開催しました。このイベントは、タイの一般消費者や旅行業界関係者を対象に、マカオの多彩な魅力(文化・エンタメ・グルメ・MICE・スポーツなど)を体験できるテーマブースやインタラクティブなゲームゾーン、タイの人気アーティストによるライブパフォーマンス、現地限定の旅行商品・航空券・宿泊パッケージの即売などを展開。
マカオの6大統合型リゾート企業や主要航空会社、旅行会社も参加。タイのeペイメント企業と連携した割引特典も提供されました。
結果として、累計175,423人が来場し、1,006件のホテル・航空券パッケージが販売され、総取引額は640万バーツを超えました。
(当日の様子の動画。 音が出ます)

出典:MGTO https://www.gcs.gov.mo/news/detail/en/N25FIv6Vva

成功の理由:「世界遺産」と「東京と大阪を一度に楽しむ」ような非日常体験を提供

当「Experience Macao」ロードショーは、サイアムパラゴンというバンコク最大級の商業施設で、現地人気キャラクターや有名アーティストを活用した五感体験型イベント、SNSやデジタルサイネージを駆使した情報拡散、航空券やホテルの即時割引販売、eペイメント連携など、現地消費者の心をつかむ具体的な仕掛けを多数展開し、3日間で17万人超を動員しました。
一方、バンコク~香港のLCC往復は約27,000円から、香港ディズニーランドや巨大モール、マカオのカジノや世界遺産など“東京と大阪を一度に楽しむ”ような非日常体験を短期間で味わえる手軽さとコスパが、タイ人旅行者の心を強くつかんでいます。  具体的な仕掛としては

 ■ゆるキャラたちがバンコクの街を練り歩き、話題作り:タイ人はキモかわいいキャラが大好き
 ■五感で楽しむブース: クラフト体験、世界遺産フォトスポット、VRカジノ体験
 ■即時購入誘導: AirAsia航空券199バーツ、Thai Lion Air 50%オフ、Agoda半額「会場限定QRコード」配布
 ■eペイメント連携: TrueMoney/Rabbit LINE Payと提携、マカオで使える5%即時割引クーポンを配布
 ■BTS駅128か所のデジタルサイネージ: 1日あたり650万回の映像露出を3日間継続
 ■TikTokハッシュタグ #เที่ยวมาเก๊าแบบWonder: イベント関連動画が3日間で2,300万回再生
 ■インフルエンサー協働: YouTuber「Mai Davika」がマカオの隠れスポットの紹介動画を事前に40本配信

このように、プロモーションを「お祭り感を演出し、楽しさを前面に押し出して」一気に実施し、マカオ行きの即売会を盛り上げました。


各国政府観光局との競争の現実

以上の通りJNTOがタイで行ってきたFITフェアに勝るとも劣らない大規模かつ集中的に当該イベントが実施されました。
当該イベントのPRの目玉としては、
・香港・マカオのLCC往復航空券(約27,000円前後)は東京~大阪の新幹線往復(約29,000円)程度と格安にも関わらず更なるディスカウントの機会
・「ディズニーランド+世界遺産+高級ショッピング」を3日間で体験できる
コスパの良さが支持されています。

これはまるで世界遺産と東京と大阪を格安航空券で楽しめるようなものです。
このように、攻勢を強める世界のディスティネーションに我々日本の地方が対抗するには、地方の「ここだけ」の体験 が鍵となります。 以下に参考となり得る事例を紹介します。

今タイで好感されている、日本の地方の差別化事例

■青森県; 海釣りやイカの新鮮なグルメ体験、弘前のアップルパイ巡りなど、地方ならではの体験が豊富です。バンコクから羽田経由で青森空港までバゲッジスルーで行けるためアクセスも良好で、東北周遊ツアーでもコストパフォーマンスの高い旅が可能。

■夏の上高地: タイ人は「暑いタイから、もっと暑い日本の夏に行Alexaおはようきたくない」と言います。 常夏のタイでは暑さが敬遠され、涼しさが好まれる傾向があります。暑そうだと思われてしまうと、興味を持ってもらえないことが多いです。そんな状況下で夏の上高地が人気なのは標高約1,500メートルの高地に位置し、夏でも涼しく快適な気候で自然を満喫できる口コミがSNSを中心に広がったためです。また、名古屋・アルペンルート、富士山、東京等ともFIT・団体ツアーともに組み合わせやすく、リピーターも生んでいるようです。

■網走の流氷体験ツアー: 流氷観光砕氷船おーろらの乗船や、専用スーツを着用して流氷の上を歩く流氷ウォークなど、北海道ならではの冬の自然を体感できます。これらの体験は、年々タイの現地旅行会社でも採用が増えており、北海道ブランドの中でも差別化された人気コンテンツとなっています。


ユニークさを再発見し、「自分自身のメディア」で発信し、自らファンを育てよう

日本のインバウンド事業者は、アジア全体を巻き込んだ激しい観光プロモーション競争の中で、「自分たちの場所にしかないユニークな価値」を明確にし、それを“分かってくれる外国人に確実に届ける”戦略こそが、今後の生き残りのカギと考えます。

1,自分たちの「ユニークさ(世界インバウンド市場における強み)」はなにか?
2,その「ユニークさ」を分かってくれる顧客層はどこの誰か?
3,インバウンドの目的に応じ、1,2で最も効果的な手法はなにか?
4,「自社メディア」で情報発信・会話を継続し続けることでファンを育てていく

世界でのインバウンド誘致合戦の中、既にインフルエンサー活用や広告のみでの閲覧数稼ぎの時代は過ぎ、地域固有の魅力を再発見し磨き上げ、数は少なくともファンになってくれるターゲットに届く形で、Facebookページなど自身の持つメディアで発信し、ファン候補と会話を続けファン化していく。
――この地道な積み重ねこそが、世界を相手にした観光競争で勝つための現実的な道と考えております。

私たちも、地方ならではの生き残りに向けて、皆様と共に歩み、ご支援させていただきたいと存じます。

アジアクリック 高橋学

【地方創生の新潮流】次のインバウンド市場はフィリピン!地方誘致のチャンスを掴もう

タイ市場を凌駕する可能性を秘めたフィリピン訪日市場

都市部におけるオーバーツーリズムが顕在化する中、インバウンド誘致においては地方への分散化が重要な課題となっています。東南アジアからの訪日観光客数推移(下図参照)によれば、フィリピンからの観光客数は近いうちにタイを上回る見込みです。タイ人観光客の誘致は量から質への転換期を迎えつつあり、今後の誘致数においては、フィリピン市場がタイ市場を上回る成長を示すと予測されます。

2023年度の訪日外客数において、フィリピンは81万8700人を記録し、対前年度比31.0%増と大幅な伸びを示しており、総数および成長率において高いポテンシャルを有する市場と言えます。

■東南アジア主要6か国訪日外客数(2019年-2023年-2024年対比)
※日本政府観光局「訪日外客統計」より、アジアクリックが独自にデータを編集

タイ市場と同様の参入障壁の低さ、テーマ性のある地方に商機

タイ市場と比較したフィリピン訪日市場の特徴は以下の通りです。

  • ●嗜好: 主にキリスト教徒であるため、タイ人と同様に食事や行動における禁忌はごく一部を除き、ほとんど考慮する必要がないと考えられます。
  • ●言語: 英語が公用語であり、公立学校でも基本的に英語による教育が行われているため、英語でのコミュニケーションが可能です。タガログ語や現地語を用いた営業手法は有効ですが、訪日プロモーションにおいては基本的に不要です。
  • ●団体ツアー: タイと同様に、団体旅行を得意とする旅行会社が一定数存在し、インセンティブ旅行の需要も高く、地方への誘致が見込めます。
  • ※フィリピンからの訪日客で団体ツアーに参加している割合は14.1%(観光庁「インバウンド消費動向調査(2024年10-12月期)」より)。
  • ●消費金額: 観光庁のデータでは他国と同様の消費額に見えますが、日本政府観光局(JNTO)マニラ事務所の渡辺所長によると、実際には「子供を含む大家族での旅行」が多いため平均額が押し下げられているだけであり、タイと同等かそれ以上の消費が期待できます。フィリピンは依然として所得格差が大きいものの、訪日者数の増加が示す通り富裕層も多く、日本人が抱くかつての貧困国のイメージとは大きく乖離している可能性があります。
  •  ・フィリピンの一人当たり旅行消費単価は約17万円、タイは約20万円(観光庁「インバウンド消費動向調査(2024年10-12月期)」より)。
  •  ・フィリピン人は親戚や友人が多いため、比較的安価なばらまき用のお菓子類を多く購入する傾向があります。今後の課題として、個人の買い物や自分へのご褒美としてより高額な商品を購入してもらうために、どこでどのような商品が購入できるかの情報提供を強化することで、消費額の増加が期待されます。
  • ●旅行先: 親族訪問を目的とする割合が依然として高い点はタイと異なります。近隣県の魅力を効果的にPRすることで、周遊や宿泊を促進できる可能性があります。子供が楽しめるアクティビティを旅程に組み込むことが重要です。

マニラ三越前

  • ●現地旅行会社: 日本の地方に関する情報が不足しており、情報提供は非常に歓迎されます。タイや台湾と同様に、フィリピンの旅行会社は営業活動を通じて信頼感と知識を蓄積するため、継続的な関係構築が有効です。
  • ●プロモーション: まずは有力な旅行会社へのセールスコールが効果的です。また、フィリピンには現在、ローカルのインバウンド専門メディアは存在しません。英語での情報収集に慣れているため、TripAdvisorやJapan-guideなどの欧米メディアを参考にすることも多いようです。ただし、フィリピンでは親族間の結びつきが非常に強く、日本在住者や訪日経験者からのSNSによる口コミが重視される傾向があります。Facebook、Instagram、YouTubeなどのソーシャルメディアを活用した施策も有効です。

 

2025年4月よりフィリピン人訪日ビザ審査体制がビザセンター方式へ移行

フィリピン人の訪日ビザ(観光目的)は、タイ人のように免除されていませんが、指定のビザ申請所で取得可能です。事実上、個人旅行(FIT)での訪日が容易となっています。

ただし、需要増加に伴う混雑が予測されており、ビザ取得の審査プロセスが変更されます。在マニラ日本大使館によると、「コロナ禍以降、訪日のための査証申請がかつてない高水準で増加しています。このような状況を踏まえ、今後とも日比間の人的交流の更なる活性化に適切に対応していくべく、目下、審査の質を適切に維持し、審査プロセスを効率化するための審査体制(ビザセンター方式)へ移行」するとのことです。具体的な変更点は以下の通りです。

フィリピン人の短期滞在ビザ取得プロセスは、2025年4月より以下の通り変更されます。

  • ・2025年4月7日より、新たな日本ビザ申請センター(Japan Visa Application Centre : JVAC)が開設されます(パラニャーケ市、マカティ市、ケソン市、セブ市、ダバオ市)。
  • ・3月19日より、JVACでの事前予約が可能になります。
  • ・申請者はJVACまたは日本大使館・領事館に必要書類を提出します。
  • ・審査期間は通常5営業日程度です。
  • ・審査通過後、短期滞在ビザが発給されます。
  • ・滞在期間は申請内容に応じて15日、30日、90日のいずれかが付与されます。

この新体制への移行により、フィリピンのホーリーウィーク(4月)に向けた日本への旅行需要が、ビザ問題の影響で一時的に鈍化する可能性はありますが、大使館によるビザセンターへの移行が完了すれば、ビザ申請がより円滑になり、継続的な訪日客増加が期待されます。

当社のフィリピンにおける誘致成功事例

  • 兵庫県豊岡市の神鍋高原スキー場への誘客を目的に、フィリピンの主要旅行会社6社に1泊のスキー体験パッケージの販売を働きかけ、実現に至りました。狙いは県内周遊時間と消費額の向上であり、PRポイントとして「大阪+雪体験」を訴求しました。
  • フィリピンの中華系旅行会社に対し、インセンティブツアーの顧客向けに秋の東北ツアーを提案し、バス1台での青森~東京6泊のツアーが実現しました。「紅葉といえば東北」というイメージの浸透に成功し、次回の企画として樹氷をテーマにした冬のツアーも検討されています。
  • その他、パートナー企業の成功事例として、佐賀県での映画撮影誘致やインフルエンサー招聘など、現地でのオフライン・オンライン施策を通じてフィリピンからの送客実績を積み重ねています。

フィリピン旅行博TMEが7月に開催

2025年7月に開催されるTravel Madness Expo(TME)には、日本政府観光局(JNTO)のパビリオンが出展される予定であり、また、JNTOパビリオン外でもPRブースへの参加が可能です。JNTOパビリオン内への出展では、日本への関心が高い来場者からの情報収集が期待できます。一方、JNTOパビリオン外に出展するメリットとしては、物販が可能であることが挙げられます。

TME日本JNTOパビリオン

Travel Madness Expo(TME)公式ウェブページ: https://travelmadness.org/

ブース出展をご検討されない場合でも、弊社では旅行博視察時に現地の有力旅行会社へのセールスコール支援も承っておりますので、マニラの状況についてもお気軽にご相談ください。

アジアクリック 高橋学