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 フィリピン訪日インバウンド90万人市場を攻めよう|神鍋・東北の成功事例

■この記事の要約(まとめ)
・タイに追いつく勢いで、今年は約90万人に達する見込みのフィリピン人観光客
・現地旅行会社が前向きに連携してくれ、フィリピン人も柔軟で地方ツアーに好意的な市場
・実際に、神鍋高原スキー場や東北を訪れるツアーで成功事例が生まれている
・フィリピン訪日市場を本格的に攻めている団体はまだ少なく、地方にとって大きなチャンスがある

■ タイの背中に迫るフィリピン訪日数。長期休暇も攻めやすい

JNTOの発表によると2024年は年間81万8,700人。ご参考までに、タイは114万8,800人でした。
2025年は、フィリピン人観光客は90万人ほど、タイ人観光客は120万人前後になると推測されます。
また、フィリピンは訪日ピークのタイミングが非常に分かりやすいのも特徴です。
・10月下旬〜11月上旬(スクールホリデー)→紅葉をPR
・6〜7月(学年末休暇)→グリーンシーズンをPR
・9〜12月(クリスマスシーズンの“Ber months”)→11~12月に誘致可能
・Holy Week(ホーリーウィーク):今年は4月17日(木)〜20日(日)、来年は4月2日(木)〜5日(日)→桜の時期
4月のHoly Weekはフィリピンで最も旅行が増える大型連休で、日本でいうゴールデンウィークに相当します。東日本を中心に桜も観られ、フィリピンに強く訴求できる時期です。
この周期に合わせてプロモーションを組むと、地方でも送客を安定して大家族単位のグループを獲得できていきそうです。

フィリピンは個人旅行(FIT)が多いように見えますが、実際には家族旅行や三世代旅行では旅行会社を使う割合が非常に高い市場です。
ビザ、保険、支払いをまとめたいという理由もあり、旅行会社への信頼は依然として強いままです。
特徴的なのは、タイや台湾と同じように、フィリピンの有力旅行会社は日本の地方が持つ企画・予算に前向きで、一緒にツアー造成まで進めてくれる点。
・「地方の冬の素材を販売したい」
・「紅葉+温泉で秋旅を作りたい」
・「自治体の支援メニューを使って販売を強化したい」
こうした提案に対し、フィリピンの有力旅行会社側が協力的で、商品化まで進めやすいです。

■ フィリピン旅行会社の特性

しかしながら現時点では他市場とは異なり、フィリピンの旅行会社は一般的に自身で地方ツアーの企画ができにくい状況です。
理由として、
・フィリピン(マニラ・セブ・ダバオ)に訪問する日本の団体がほぼ存在しない
・よって、日本の地方の観光情報が圧倒的に不足している
といった事情があります。
そのため、既に販売可能なツアー行程を提示すれば、そのまま比較的速やかに販売に乗せられるという点が、フィリピン市場の大きな特徴であり寛容さ、セールスコールを行うメリットでもあります。
もちろん、旅行会社への提案内容がフィリピン人にとって魅力的で、旅行会社の利益になることが前提条件となります。

■ なぜフィリピンの旅行会社経営は今も元気なのか

フィリピン人の旅行スタイルに、その理由があります。
1)友人グループ → 家族旅行 → 一族旅行へと発展していく
2)一族旅行になると、費用を出すのはその「長」(祖父母など)
3)この「長」が、長年付き合いのある旅行会社に相談する傾向が強い
フィリピン人にとって旅行会社は、ワンストップショップであり信頼の窓口です。この構造が、フィリピンの旅行会社が今も元気で、自治体やDMOなどインバウンド団体や施設にとって頼りになる存在である理由です。この海外旅行が少人数から大きな団体へと発展していく構造は、MICEへもつなげることができます。

■ 消費単価は“低い”のではなく、子どもが多いため平均が下がって見えるだけ

JNTOによると、フィリピン人観光客の消費額は185,518 円と公開されています。これはインバウンド全体の平均(約22万7,000円)より少し低めです。
(ご参考までに、2024年の中国人訪日客約698万人の平均消費額は276,604 円です)
しかし、その理由は明確で、フィリピンからの訪日旅行は子ども連れの家族旅行が非常に多いためです。フィリピンの平均年齢は約26歳で、総人口1億1,800万人のうち15歳未満が約3割、0〜24歳が約半数を占めるとされています。こうした人口構成から、家族旅行や三世代旅行が多く、旅行グループ内の子どもの割合が高くなるため、一人当たりの平均消費額が相対的に低く見えるだけなのです。

実際には、
・桜や紅葉、雪など四季の体験
・温泉(貸切風呂)
・和食(「焼肉・揚げ物・ご飯」の組み合わせや寿司、ブッフェ、たこ焼きなどおやつ、)
・ディズニーランドやユニバーサルスタジオなどエンターテイメント施設
等に代表されるの支出は大人中心にしっかりと動いており、「節約型市場」というわけではありません。

「フィリピン人はお金を使わない」という一昔前のイメージを持つ方もいらっしゃると思いますが、これは誤解です。
フィリピン人観光客かつての中国人観光客のような“爆買い”はしないものの、
・家族・親戚・友人へ配る「バラマキ土産」は必須であり、総額としては決して小さくない
・今後は“人のための買い物”から“自分へのご褒美消費”へ少しずつ移行していくと見られる
・高額商品への関心も、これから確実に高まっていく兆しがある
といった傾向が見られます。インバウンド全体の平均以上に消費をすると考えても差し支えないでしょう。

JAPAN VLOG | with Bea (foodtrip, shopping & exploring tokyo) By Danica O.

■ 宗教的禁忌が少なく、英語を解すため地方でも受け入れやすい

フィリピンは人口の約89%がキリスト教徒で、飲食・行動の禁忌が(一部の宗派や信条を除き)ほぼありません。
また、大体のフィリピン人観光客は英語を解します。2023年3月の国内世論調査では、成人フィリピン人の47 %が「英語で思考できる能力がある」と回答。同調査によれば、成人者の8割が「英語(読み・聞き)を理解できる」と報告されています。
日本の地方では、ムスリム対応や食事制限への配慮が必要な市場や、英語が通じにくい訪日市場と比べて、現場の負担が少なく、受け入れがスムーズに進められるでしょう。

■ 成功事例① 豊岡市神鍋高原スキー場

兵庫県豊岡市の神鍋高原スキー場では「大阪に最も近いスキーリゾート」を訴求テーマとして、フィリピン家族市場向けに神姫バスを交通方法としてパッケージング。
人気の大阪訪問時に雪も楽しめるパッケージとして、フィリピンの複数の有力旅行会社が「そのまま販売したい」と次々と採用いただきました。
FIT中心と言われるフィリピンですが、フィリピン人向けに一手間かければ、地方も好感される市場であることを示す典型例です。

■ 成功事例② 東北へ紅葉時のインセンティブツアーが催行

東北では、紅葉の旅を法人向けフィリピン華僑系旅行会社に提案、青森から東京まで何台ものバスで移動する現地フィリピン企業の報奨旅行が実施されました。
背景として、フィリピンでは日本旅行の人気が高い一方で、日本のランドオペレーターが提供する既存パッケージに依存する状況が長く続いてきました。しかし、リピーターが急増している近年では、「ゴールデンルート+1〜2」という形で、新たな目的地を求める訪日客が増えています。
首都マニラの主要旅行会社も、このニーズに応えるために新規デスティネーションの開拓に積極的になりつつあります。
そうしたタイミングで東北に目を向けるフィリピンの旅行会社が出てきたことは、日本の各地方の今後の展開が進む大きな一歩と言えます。

■ 実はまだ、フィリピン市場に注力している自治体は少ない

タイや台湾は既に多くの自治体が力を入れており競争が激しいのに対し、フィリピンはまだ本格参入している自治体が限られているのが現状です。
・訪日客数は90万人、タイに追いつく勢い
・旅行会社が地方企画に前向き
・地方季節素材がしっかり売れる
・言語、宗教的にも受け入れやすい
・家族旅行が中心で地方滞在との相性が良い
こうした条件がそろっている一方で競争が少ない今は、地方にとって取り組みやすいタイミングと言えます。

■ まとめ

フィリピンは「送客が見込めて、旅行会社と動きやすい」訪日市場です。訪日客数の増加、旅行会社の協力姿勢、季節旅行との相性の良さなど、地方自治体にとって取り組みやすい要素がいくつも揃っています。
豊岡の冬、東北の秋という2つの成功事例は、フィリピン市場の扱いやすさと伸びしろを感じさせるものでした。
タイの次に育てる市場として、フィリピンは今注目すべき存在です。
私も現地で支援いたします。 お気軽にご相談ください。

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